第3部分 (第3/5頁)

になったように立ちすくんでいたが、とつぜん、口のうちでなにやら叫ぶとクルリとむきなおって、

「さようなら、文彥さん、あたし、こうしちゃいられないわ。いいえ、あなたはきちゃだめ。あなたは早くおうちへ帰って……。

箱をあけるのは、8.1.3よ」

香代子はまるで猛獣におそわれたウサギのように、やぶかげの小道を走り去っていった。

文彥はいよいよますます、キツネにつままれたような気持ちがした。考えてみると、きょう一日のできごとが、まるで夢のようにしか思えないのだ。

文彥はよっぽど香代子のあとを追って、もう一度あの家へひきかえしてみようかと思ったが、気がつくと、あたりはすでにほの暗くなっていた。

いまからひきかえしたりしたら、すっかり日が暮れてしまうことだろう。

それにきちゃいけないという香代子のことばもあるので、やめてそのままうちへ帰ってきたが、

「ただいま」

と、|格《こう》|子《し》をあけるなり、奧からころがるように出てきたのはおかあさんだった。

「ああ、文彥よく帰ってきたわね。おかあさんは心配で心配で……それに、|金《きん》|田《だ》|一《いち》先生も、けさのテレビを見て、ふしぎに思ってきてくだすったのよ。あまりおそいから、いま迎えにいっていただこうと思っていたところなの」

そういうおかあさんのうしろから、

「や、やあ、ふ、文彥くん、お、お帰り」

と、顔をだしたのは、たいへん風変わりな人物だった。よれよれの著物によれよれのはかま、それにいつ床屋へいったかわからぬくらい、髪をもじゃもじゃにして、少しどもるくせのある、小柄でひんそうなひとなのだ。

そのひとはにこにこしながら奧から出てきたが、ひと目文彥の顔を見ると、

「や、や、どうしたんだ、文彥くん? き、きみはまるで、ゆ、ゆうれいでも見たような、顔をしているじゃないか」

ああ、それにしてもこの金田一先生というのは、いったい何者なのだろうか。

ひょっとすると諸君のなかには、もうこの名を知っているひとがあるかもしれないが……。

名探偵、|金《きん》|田《だ》|一《いち》|耕《こう》|助《すけ》

金田一耕助。――と、いう珍しい名まえは、そうざらにあるものではない。だから諸君のなかにもその名を聞いて、ハハアと思いあたるかたもあることだろう。

名探偵、金田一耕助! そうだ。そのとおりなのだ。みなりこそ貧弱だが、顔つきこそひんそうではあるが、金田一耕助といえば、日本でも一、二といわれる名探偵。その腕のさえ、頭のよさ、いかなる怪事件、難事件でも、もののみごとに、ズバリと解決していく推理力のすばらしさ。

その金田一耕助は、むかしから文彥のおとうさんとは、兄弟のように親しくしている仲だったが、きょう、はからずもテレビのたずねびとの時間に、文彥の名を聞いて、ふしぎに思ってたずねてきたのだった。

「文彥くん、どうしたんだね。それできみは、大野健蔵というひとのところへいってきたのかね」

「はい、いってきました。でも、先生、それがとてもみょうなんです」

「みょうというのは……?」

そこで文彥は問われるままに、きょう一日のふしぎなできごとを、くわしく話して聞かせた。途中で出會った気味の悪

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